ボーダーライン。Neo【中】

 あたしは居た堪れずに踵を返した。

 親友の想いを知り、走りながら考えた。

 美波は、あたしが今まで打ち明けてきた悩みや相談を、一体どんな気持ちで聞いていたんだろう、と。

 知らなかったとは言え、あまりにもデリカシーが無かった。

 日頃から、常に嫉妬されていたのだとしたら、どうしよう……。

「幸子っ!」

 込み上げる気持ちを涙と共に流していると、彼に手首を掴まれた。

「何か誤解してない!?」

 檜は、表情からして必死だった。

 両手であたしの肩を掴み、彼と向き合う形で体の向きを変えられた。

「だって今、美波っ」

 あたしは唇を震わせ、言葉に詰まった。

「何にもないよ、美波さんが階段でこけそうになったのを、俺が支えただけで」

 ーーそうじゃないっ。

 あたしはぎゅっと目を瞑り、ぶんぶんと(かぶり)を振った。

「……がう、違うのっ」

「え?」

「そうじゃない。美波はっ、……好きなのよっ」

「え」

 狼狽えた檜を見上げ、あたしは告げた。

「美波は…。檜の事が好きなのよっ」

 檜は眉を寄せ、首を捻った。

「なに、言ってんの? そんなはず無いじゃん?」

 そう言いつつも、頭から否定出来ないのか、彼の表情は微妙に歪んでいた。どこか心当たりがあるように見えた。

 ーー嫌だ。そんな表情(かお)しないで。

 あたしは堪らずに、檜に抱き着いた。

 たとえ親友であっても、檜の心を奪う者は許さない。

 彼は誰にも渡さない。

 そんな、浅ましい独占欲が体の中心部から細部にわたるまで、あたしを支配していた。
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