ボーダーライン。Neo【中】

「ごめん。うまく言えない」

 彼はそう言ったきり、口を閉ざしてしまった。

 あたし達は互いに沈黙し、室内を満たす空気は言うまでもなく重々しかった。



 眠気や吐き気といったつわりの症状に加え、檜への失望感を抱えたまま、あたしは七日の検診日を迎えた。

 親には勿論、美波にも相談出来ず、不安ばかりの一週間だった。

 平日の金曜日。

 前もって時間割の都合を付けていた為、今日も午前で仕事を早退した。

 ちょうど産婦人科の待合室で、順番を待っている所だ。

 幸せそうにお腹を撫でる妊婦さんや、母親から注意を受けながらも活発に走り回る小さな子供に、あたしは羨望の眼差しを向けていた。

 前回の診察を思い出すと、不安と恐怖で堪らなくなる。

 今日も同じ結果だったら、とついネガティブな想像が頭を過ぎった。

 そうして溜め息を吐いていると、診察室のドアが開き、名前を呼ばれる。

 立ち上がる足は既に重々しかった。

 傾斜の台に背を預けながら、カーテンの隙間から覗くディスプレイを、ただただ祈る気持ちで見つめていた。

 内診が終わり、台から降りると、女性医師の指示で隣室に移る。

 丸椅子に対面して座る医師の顔には、少しの笑みも無かった。

「……残念ですが」

 そう言って憐憫(れんびん)の情を顕わにされた。
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