ボーダーライン。Neo【中】

 状況を察し、どうして、と声がかすれた。

「どういう、事ですか?」

 自然と唇まで震え出す。

 医師の話によると、出血や下腹部痛を伴わない稽留(けいりゅう)流産らしかった。

 しっかりとした妊娠反応が有るのに、どうして、と疑わずにはいられない。

 あたしは医師の話を聞きながら、固まった人形の様に涙を流した。

「特に桜庭さんが悪いとかじゃないの。原因の七割以上が染色体の異常等で、赤ちゃん側にあるんです」

 医師にそう宥められても、現状を受け入れられず、まるで他人事の様に今後の処置を聞いていた。

 病院で会計を済ませ、渡された書類と共に車に乗り込んだ。

 エンジンをかけられず、暫く駐車場でさめざめと泣いていた。

 這い上がる事の出来ない深い谷に、突き落とされた気分だ。

 あたしは、好きな人の子供すら宿せない。

 何度も何度も愛し合っていたのに、その形すら残せないなんて。

 ハンドルにもたれかかりながら、襲いくる悲しみに嗚咽を漏らした。

 やはり結婚を目的とした妊娠だったから、赤ちゃんも育ってくれなかったんだ。

 女としても、母親としても、失格だ。バチが当たったんだ。

 しゃくり上げながら、あたしは鞄の中のスマホを手にした。

 少しでも愛しい人の声が聞きたくて、迷わず発信する。

< 169 / 284 >

この作品をシェア

pagetop