ボーダーライン。Neo【中】

「今俺が言った事。美波さんは、そのまま知らない振りをして下さい」

「え、」

「親友の美波さんにさえ、言わなかったって事は。今の彼氏にバレる恐れがあるからです」

「……ええ。それは、そうだけど」

「気まぐれでも何でも、アレはちょっとした成り行きだったんです。
 俺はもう二度と会うつもりは無いし。向こうも彼氏と……いや、そのカサイさんって婚約者と幸せになりたい筈です」

 幸子から聞いた話だと、僕とは正反対の男だ。

 僕の言葉を受け、美さんは暫く押し黙っていたが。ややもすると、「ええ、そうね」とどこか腑に落ちない様子で呟いた。

「でも……。サチはこのままで、幸せな結婚なんて出来るのかな?」

「え?」

 突如、バタンと扉の閉まる音がし、思考を遮られる。

「なに、今の??」

 美波さんは椅子から立ち上がり、戸口に向かった。そのまま扉を開け、廊下にひょいと顔を出している。

「ああ、なんだ。風か。向かいの窓も開いてるし、ちゃんと戸も閉まって無かったみたい」

 ーー扉が開いていた?

 僕は顔をしかめ、記憶を辿る。

 ーーそんなはずは無い。確かにこの手でちゃんと閉めたはずだ。

 と言うことは……。

 誰かが少し開けて、先客がいるのに気付いて立ち去った?

 いや、でも。そうであって欲しいが。

 結構きわどい内容だったから、黙って立ち聞きされていたのだとしたら……。


 流石にまずいと感じるが、今の時点ではどうする事も出来ない。

仕方なく立ち上がり、美波さんと一言二言交わしてから、僕は休憩室を立ち去った。


 ***

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