ボーダーライン。Neo【中】
◇ ♀
「何だよ、兵太。凄いじゃん?」
慎ちゃんの休日、キッチンで晩御飯の支度をしていると浮ついた声が耳に届いた。
携帯電話を耳に当て、慎ちゃんは嬉しそうに顔を綻ばせている。
「あの気に入ってた女の子だろ? 良かったじゃん?」
何についての会話かはさっぱり分からないが、掛けてきた“兵太”さんは分かる。慎ちゃんの会話の中に度々登場する、会社の人だ。
会社の同僚と飲むという時も、その兵太さんの名前が出てくるし、新年を迎えて数日経った頃に届いた年賀状の名前も兵太さんだった。
会社で余程仲の良い同僚なのだろう。
「は……?」
不意に慎ちゃんが素っ頓狂な声を上げ、また視線を送ってしまう。
何かよく分からない相談を受けているのかもしれない。
あたしは彼の会話に構わず、料理に没頭する。
やがて電話を終わらせた慎ちゃんが、浮かない顔で座っているので、どうしたの、と近付いて訊ねた。
「何か困った事でも…有った?」
「いや、会社の同僚からなんだけどさ」
ぎこちない笑みで彼が言うや否や、慎ちゃんの携帯にまた電話が掛かってきた。
「……ごめん、ちょっと」
スマホのディスプレイに若干眉をひそめるものの、慎ちゃんは立ち上がり寝室で電話を繋いでいた。
ーー何だろう? 何か仕事のトラブルかな?
明らかに慎ちゃんの様子が変だ。
あたしはため息ひとつこぼし、またキッチンへと引っ込んだ。
***