ボーダーライン。Neo【中】

 ふと、僕の頭の中にある可能性が思い浮かんだ。

 竹ちゃんの言葉通り、茜が僕を探してあの休憩室まで来たのだとしたら……。

 ーーあの扉を開けたのは茜か?

 幸子とのやましい関係を知って、そのまま立ち去ったのだとしたら。

 茜はきっと傷付いただろう。

 僕がまた幸子に惚れて、そのせいで振られたのだと腹を立てているかもしれない。

 過去、茜は僕が教師である幸子と付き合っていたのを知っている。

 あのワンマンライブの夜、幸子を抱き締めている写真を撮られたからだ。

 もしかすると、茜は誤解しているかもしれない。僕と幸子が今でも付き合っていると、そう思っているかもしれない。

「そっか、ありがと。また上河にも電話しておくよ」

 そう言って竹ちゃんに笑みを向けた。

 僕はその足で楽屋に戻り、ロッカーに入れたままのスマホを取り出した。

 ソファーに座り、つい昔の癖でディスプレイから時刻を読み取ると、午前十一時を十分ほど過ぎたところだった。

 竹ちゃんは「昼に」と言っていたけれど、もしかしたら繋がるかもしれないと思って電話を掛けた。

『……檜か、どうした?』

 珍しく、数回の呼び出し音で社長に繋がった。

「あの……今、お時間大丈夫ですか?」

『ああ』

「この間の。海外活動についての返事なんですけど」

 そこで社長は幾らか押し黙り、『決まったのか?』と訊ねた。
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