ボーダーライン。Neo【中】

『まだ……。好きなの? あの人の事」

 ーーえ。

 まさかここで幸子の話を振られるとは思いもせず、動揺からドキンと鼓動が跳ねた。

『だってもう、結婚するんでしょう?』

 ーーそうだ。幸子は結婚する。カサイという男の妻になる。

「好きだよ。幸子の事は……今でもずっと」

 結婚すると分かっていても、何年も抱えてきた恋心だから、暫くは忘れられない。

 だからこそ、社長にイエスの返事を出したんだ。

「でも。もう終わらせた」

『え?』

「ついこの間だけど。ちゃんと終わりだって、幸子に言った。もう二度と会う事もない」

『……じゃあ、わたしは?』

「え?」

『今でも檜を好きな、わたしの気持ちはどうしたらいい?』

 語尾は涙声だった。何と言って慰めればいいのか分からず、言葉に窮する。

「……ごめん」

 結局、謝る事しか出来ず、俯いた。

 茜の事は嫌いじゃない。どちらかと言えば好きだ。

 でもこの気持ちには心当たりがある。恋じゃない、友達としての好き。過去、奈々に対して抱いていた気持ちと同一のものだ。

 だから茜の気持ちには、この先もずっと応えられない。

 幸子のように、笑顔にさせるために何でもしてやりたいとは思えない。

 茜は黙り込んでいた。途中途中で洟をすする音が伝わり、泣いているのだと気付いた。

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