ボーダーライン。Neo【中】
「……それに俺。今年の夏から海外に行く。もう、社長にも言ってあるから」
『かい、がい?』
「ああ。聞いてるだろ? 海外からの引き抜き」
『……なっ、何で??』
「理由は。俺にも分からない」
『え……』
嘘だ。理由は日本を離れたいから。
海外との繋がりを作りたいという気持ちに嘘は無いが、先だっての気持ちはそれだ。
僕は感情のままに、彼女の世界から“離れる”という道を選んだ。
「単なる、逃げかもしれない。……じゃあ」
そう言って一方的に回線を切った。
左腕の時計に目を落とし、時刻を確認する。
そろそろ雑誌の取材の時間だ。僕は立ち上がり、スマホをロッカーの中に仕舞うと、楽屋を後にした。
単独での取材の仕事を終え、午後イチから出勤したカイを誘って、事務所のカフェへ行く事にした。
下降するエレベーターの中、順に点灯する階数表示を見つめ、口を開く。
「社長には“行く”って返事したから」
「え、もう? まだ返事をするまで、四日あるだろ?」
「そうだけど……。多分気持ちは変わらないから」
「……そっか。俺は……行かないからな?」
「ああ」
そこで機械音が鳴り、扉が開いた。