ボーダーライン。Neo【中】
ぐちゃぐちゃに荒らされたリビングを見て、声が震える。
『サチ、落ち着いて。部屋が何だって?』
いつになく真剣な声で、慎ちゃんが訊いた。
「……ごめ。今、バイトから帰ったら、部屋が荒らされてて。もしかしたら、泥棒かもって、思って」
彼の優しさに涙が滲み出る。
『え? 泥棒?? ちょっと待って、課長に話して帰れるようにして貰うから!』
「え。帰っても大丈夫なの?」
今すぐ帰って来てくれたらどんなに心強いだろう。
『バカ。緊急事態だろ? すぐに帰るから待ってろ』
「うん……っ」
ーーやっぱり、慎ちゃんは優しい。
通話を終えた携帯を握り締め、一旦深呼吸をする。
慎ちゃんが帰って来てくれるのなら、安心だ。
あたしは気持ちを落ち着け、スクッと立ち上がる。
ストッキングを履いたままの素足に近い状態で、割れた食器類を踏まないように足を出した。
とりあえず、通帳がちゃんとあるかどうかは確認しておこう。
寝室へ行き、やはり部屋の乱雑さに顔をしかめる。
洋服箪笥の引き出しも幾つかぶちまけられ、もう通帳は無いかもしれないなと途方に暮れた。
しかしながら、床へ落とされた引き出しの中を探り、あれ、と眉をひそめた。
ーー何で?
あたし名義の通帳と、慎ちゃん名義の通帳、どちらもちゃんと中に入っていた。