ボーダーライン。Neo【中】
暫くの間、動けずにしゃがみ込んでいたが、扉が開くはずもないので、そろりと立ち上がる。
あたしは二冊の日記帳を腕に抱いたまま、のろのろと夜の町を歩き出した。
ストッキングを履いただけの状態なので、路上に転がる小石や小さなガラスの破片で、足の裏はいともたやすく傷だらけになった。
歩く度に皮が捲れ、その痛みに歯を食いしばる。
行く当てなど、有って無い様なものだった。財布や携帯といった貴重品を持たない状態なので、移動手段は自らの足しか無い。
実家までなど、到底歩いて行ける距離じゃない。
そう分かっていながら、あたしは実家に向かい、無心で歩を進めた。
三十分ほど歩き、やがて人通りの多い繁華街に出る。すれ違う人はあたしを凝視し、うわ、と顔を歪めていた。
顔に痣を作り、頭はボサボサ、服もヨレヨレで靴すら履いていない。鞄も持たず、ノート二冊を持ち歩くあたしは、さぞかし憐れで滑稽な女だろう。
「見ろよ、あれ」と指を差す若者までいる。
どれだけ好奇の視線を浴びせられても、羞恥心など欠片も無かった。
顔や足、体中が痛くてもただ懸命に歩く事しか出来ない。
虚ろな目で足元を見つめ、いつから慎ちゃんにバレていたんだろうと、ふと考えた。