ボーダーライン。Neo【中】
だから、慎ちゃんと体を重ねる事も拒んでしまった。
慎ちゃんからの仕打ちは、バチが当たったと思って受け入れるしか無い。愛のない結婚をするぐらいなら、この痛みの方が幾分もマシだ。
バレてしまった事は却って良かったんだと、半ばポジティブに考え、手の甲で涙を拭う。
丁度その時。
“パッパ”、と。背後からクラクションが鳴らされた。
何だろう、と顔をしかめるだけで、一心不乱に歩いていると、背後からの車はやがて路肩に寄り、助手席の窓を開けた。
「桜庭さんですよねー??」
ーーえ!?
若い男性の声に、あたしはビクッと肩を震わせた。突然の恐怖が背中を寒くする。
「馬鹿、陸。そんな言い方だと不審がられるだろ?」
聞き覚えのある声に、ハッとして振り返る。
グレーのワゴン車には見知った姿が有った。
「うそ。……カイ、くん?」
今やテレビでしかその姿を見る事は無いが、檜の従兄弟である秋月 カイくんだとわかる。
「やっぱり。桜庭先生だ」
そう言って間もなく、彼の表情は曇った。
あたしは胸に日記帳を抱き締めたまま、曖昧に俯いた。今更、こんなズタボロの姿を隠しようも無いのに、車に檜が乗っていたらどうしよう、と不安になった。
カイくんは車を停め、後部座席の扉を開けた。
「理由は後で聞くとして。とりあえず今は乗って?」
若干の躊躇いは有った。
けれど、そこに檜の姿が無い事を確認すると、あたしは車へと乗り込んだ。
***