ボーダーライン。Neo【中】
◇ ♂
海外行きを決めた夜。
僕は透さんと会い、いつものバーで飲んでいた。飲むと言ってもグラスを満たすのは、アルコールの無いジンジャーエールだ。
「海外??」
Star・Blacksからの引き抜きの話をすると、透さんは大袈裟に目を見開いた。
「それを、何でまた一人で?」
「チャンスだと思ったからですよ」
僕はグラスを傾け、炭酸を喉に流し込んだ。口腔で弾ける泡に、僅かながら眉を寄せる。
「FAVORITEがバラバラになってもか?」
透さんの問いに、僕は眉間をしかめた。
「そうはならない」
カイの言う通り、更新を引き延ばさなければ、きっかり一年で切り上げれば、また四人で再始動出来る。
僕はそう信じて疑わなかった。
「日本を離れる覚悟があるって事は、例の彼女の事はもう踏ん切りがついたのか?」
瞬時に幸子の事を差しているのだと分かり、グラスを置いた。
「結婚式は来月の十七日。しつこく想ってたって……もうどうにもならないですよ」
「そっか。それで海外の話を受けたのか」
不意に図星を突かれ、カッと頬が熱くなる。
「……まぁ。五割りはそうです。違う環境の中に溶け込んで、忙しさに没頭して……やがて忘れていく。
時々、あの頃はこうだったなって。思い出すぐらいが丁度良いんです」
「そうか……。まぁ、初恋は実らないって言うしな?」
「ですよね」
僕たちは顔を見合わせて笑った。
「じゃあ今夜は。檜の門出を祝して乾杯だ」
グラスを合わせる音がカラン、と響いた。
***