ボーダーライン。Neo【中】
あたしは神妙な顔つきで目を見張り、過去に記憶を遡った。
あたしの記憶通りのバラードなら、サビの歌詞では、彼とロンドンで叶えた初めてのデートが歌われている。
やがてゆったりとした前奏が始まり、曲に檜の声が入った。
「……っ、うそ」
ーーやっぱりあの歌だ。何で? 何で、今さら……?
曲はAメロからサビへと流れ、それと同時に過去の思い出達が胸中を埋め尽くした。
『国境の外で嘘みたいな恋人ごっこ
二人だけの世界で時間を支配出来たら
……本気でそう思ったよ』
ーー何でFlowerを出したの?
檜がこの歌を書いたのは、あたしと付き合っていた過去だ。
歌詞の内容はあたしを想う気持ちそのものだと、嬉しい告白をしてくれた。
檜がHinokiとしてデビューを果たしたのは、あたし達が別れた後。
だからこの歌がCDとして売り出される事は無かった。もう公に発売されるとは思っていなかったのに、何で?
曲調と共に呼び起こされる幸せだった過去に浸り、あたしは視界が滲むのを感じた。
ーー「自意識過剰だったらごめんね?」
不意に過去の自分が照れ臭そうに言った。
ーー「あの歌。あたしへのラブソングだったりする?」
いつだったか。檜と初めて迎えた誕生日、あたしは彼にそう訊ねていた。
そして自らの声に返答がある。
ーー「するよ? つか、そのまんま。俺の気持ち」
ーーカイくんだ……。
両手で口元を覆い、あたしは涙目で俯いた。