ボーダーライン。Neo【中】

 慎ちゃんに部屋を追い出させたあの夜。カイくんの車に拾われて、あたしは無事に実家へと辿り着けた。

 無様なあたしを知られるのが嫌で、檜には言わないで、と一応はお願いした。

 でもカイくんには、あたしの気持ちなんてお見通しだった。

 本当は会いたかった。

 怪我をした自分を見られるのは嫌だけど、結婚が無くなった事を、本当は知って欲しかった。

 慎ちゃんと破局した今に、そして結婚式を予定していた六月十七日という今日に、【Flower】を出すなんて。

 そんなの、意図的としか思えない。

 檜はあたしの現状を既に知っているんだ。

 自意識過剰かもしれないけれど、【Flower】の歌詞が昔のままなら、あたしへラブソングを送ってくれたんだ。

 そう思い、あたしは歌詞の一言一句を聴き逃すまいと耳に集中した。



『〜〜初めて同じフレームに収まったあの場所で

 僕はキミを待ってる』



 ーーえ。



『今日からの(セブン)days

 キミを待ってる』



「うそ……知らない。こんなフレーズ」

 目をしばたたき、曲をしっかりと最後まで聴いた。


 ーー“初めて同じフレームに収まったあの場所”って。

 ロンドンの……トラファルガー広場、って事?


 あたしは初の海外旅行で、檜に案内されたあの一日を思い出していた。

 確か、ナショナルギャラリーを背景に、向こうのおばさんに写真を撮って貰ったんだ。

 あたしは慌てて本屋を後をし、近くのCDショップに駆け込んだ。

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