ボーダーライン。Neo【中】
ーートラブルって何だろう?
檜との連絡はちゃんと毎日取り合っていたし、ここの所、芸能活動を理由に、彼だけが午後から早退しているのも知っていた。
何より、彼氏の事をあたしが関知していないのは嫌だと思った。
「社長である伯父の耳には入っていないので、トラブルと言うとちょっと大袈裟なんですけど」
「何ですか?」
先を促すと、彼女はチラリと視線を寄越す。
「ボーカルである檜くんが、バンドのグループ自体を辞めたいって言い出したんです」
「えッ??」
予期しない発言に思わず息を呑んだ。
ーーそれってつまり。FAVORITEを抜ける、ボーカルを辞めるって事よね?
急に何でそんな事……。
「メンバーの皆もそうやって驚いたそうです。
……で、その時ちょっと、険悪な雰囲気にもなったみたいなので。
檜くんも十日ぐらい、事務所を休んでました」
ーー事務所を休んでた? そんなの知らない、聞いてない。
檜からは事務所へ呼び出されて早退していると聞いていただけに、彼女の話が信じられなかった。
「それで。急に辞めたいって言った直接の理由をわたしが訊いたら、どうやら彼女の親に交際そのものを反対されてるみたいで。
芸能界という仕事を批判された、と言っていました」
思わず目を見張り、自分の耳を疑った。
動揺してはいけない、と頭では分かっていても、その言葉には驚かざるを得なかった。