ボーダーライン。Neo【中】
「別れるも何も。あたしは秋月くんとは何の関係も」
「いいんです! 今更そんな嘘は」
ーーは?
「最初にも言ったはずです。わたしは付き合ってるかどうかを確認する気も、それを問い質す気も全く無いんです」
ーーそんなの。一方的な決め付けじゃない?
そう思ったところで、上河さんは手前に置いた携帯を手に取った。液晶をタップする彼女に、なに、と顔をしかめてしまう。
「これ。どう見ても檜くんと桜庭先生ですよね?」
呈示された写真を見て、全身から血の気が引くのを感じた。
ディスプレイに映るのはあたしと檜の抱き合った姿だ。撮られた時間が夜のせいか周囲は暗いのだが、お互いの顔ははっきりと確認出来た。
「八月の、あのワンマンライブの後。
泣いた先生を追い掛けて、檜くんが抱き寄せるところ。わたしはちゃんと見てました」
そう言われて、これがいつ撮られたものかを理解した。
あの夜。美波も彼を好きなんだと知り、あたしは周りの状況も考えずに檜に抱き着いた。
ーーアレをこの子に見られてたんだ……っ。
あたしは黙りこくったまま、置物と化していた。
震える唇を噛み締め、足元から這い上がる不安と恐怖に身をすくめる。
「わたしがさっき説明した事、全部理解して頂けましたよね? 別れて貰えませんか? 檜くんと」
「……っ、嫌です!」