ボーダーライン。Neo【中】
「そんな事をしたらどうなるか、言わなくても分かりますよね?」
上河さんの“お願い”は、もう脅迫でしかなかった。
「……ええ」
何が何でも檜と別れさせたいという、彼女の強い敵意を感じる。
結局のところ、なす術も見出せず、「帰ります」と言って静かに席を立った。
「今日決められないのなら、返事は一週間後。携帯に連絡して下さい」
彼女に背を向けた所で、念を押されて振り返る。
「好きな人の将来を考えて黙って身を引く、そう難しい事じゃないですよね??」
その言葉に、踏み出す一歩は重々しく。
あたしは失礼します、と一礼を残した。
再び部屋へと辿り着き、混乱する頭を整理しよう、とハーブティーを淹れた。
ピンク色の、二人掛けのソファーに腰を下ろし、両手に包んだ熱いカップに息を吹きかける。
上河さんの話は、充分に理解出来た。
檜が夢を掴む、その障害になっているのがあたしの存在で。
アーティストを目指す彼にとって、メンタルを左右する“彼女”という存在が邪魔なのだ。
それに併せて、教師というあたしの職業が、今後檜の人生を危うくさせる。だから別れて欲しい。そういう“お願い”だ。
別れるしか道は無いのだろうか? 頭を働かせれば、もっと別の方法があるかもしれない。
ーーとにかくは、あの子を黙らせる方法を考えないと……。
自分でも往生際が悪いのは分かっていた。