ボーダーライン。Neo【中】
帽子とサングラスを取り、今は伊達眼鏡を掛けた横顔だ。

 完璧だ、と思ってしまう。

 相変わらず檜は、自分の魅せ方を知っている。

 惚れやすく単純なあたしは、まんまとその魅力に囚われる。

「急いで無いから良いよ? 無くさずに持っててくれたら」

 檜は真っ直ぐ前を見つめたまま穏やかに笑った。

「……そう。なら、もう帰るわ。部屋で彼が待ってるの」

 合鍵を返せないのなら、会う意味もない。ニュアンスでそう伝えたつもりだが、彼は眉をひそめて僅かに減速した。

「もうちょっと居ろよ?」

「ドライブも……。長時間になると、危ないんじゃ無かった?」

 五年ぶりに再会したあの夜。檜の言った台詞をそのまま述べ、あたしは腕時計を見つめた。

 まだ走り出して十分も経っていない。

「今の彼氏、どんなやつ?」

 不意に問われた質問に首を傾げる。

「どんなって、別に普通だよ?」

「普通って?」

「……普通に。パソコンを使う仕事してて、三つ年上で、優しくて。あなたみたいに目立つ職業じゃない」

「ふぅん」

 そうだ。慎ちゃんは至って平凡で真面目で、現実感のある人。

 結婚する未来も難なく描けるこっち側の男性だ。

 不安と疑心暗鬼の世界に身を置くあなたとは、正反対。

 相手が慎ちゃんだと、あたしは自分を見失う事もないの。
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