ボーダーライン。Neo【中】
あたしは、あたしの身の丈に合った人と結婚しようって。()()()そう決めたの。

「あなたにはいないの? そういう相手」

 何気なく、そんな疑問を口走っていた。

「……え、」

 檜がチラッとあたしに目を向ける。

「芸能界って。出会い、多そうだよね?」

 かつて檜と付き合っていた頃。あたしは散々とその事に思い悩んだ。

 まだ見ぬ女性の影を自らで作り出し、不安を助長させた。

「どこまで本気で言ってんの?」

 不機嫌さを装い、檜が顔をしかめた。

「え?」

「俺が他に。女を作ってそうに見える?」

 咎めるつもりなど無かったのだが。ふと、真剣な檜に責められている気がして、あたしはそっぽを向いた。

 心拍数が早まる。

「幸子は全然分かってない」

 窓の外を見つめながら、視界が僅かに滲んだ。唇が震える。

「俺が好きなのは、今でも幸子だけで」

「呼ばないでっ」

「え?」

「名前で、呼ばないでよ」

 ーー檜の顔が見れない。

「もうそんな関係じゃないし。あなたは、あたしにとって忘れたい過去なの」

 ーーあたし。心にもない事、言ってる。

 重い沈黙が車内を満たしていた。
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