ボーダーライン。Neo【中】
彼は何も言わずに、やがて閑静な住宅街にある公園脇に車を停めた。

「何で。じゃあ何で、俺と寝たんだよ!?」

 あたしは真顔で前を見つめたまま、口を結んだ。

「あの時。あの夜、何で俺とヤりたいか。そう訊いたら幸子言ったよな!? 俺を好きだからって」

 責められるのは分かっていた。

 あたしは目を伏せ、ごめんなさい、と呟いた。

「あの時は。正直言うと、誰かに抱かれたい気分だったの」

 ーー嘘。

「え?」

「仕事で多忙な彼とずっとできなくて。欲求不満のはけ口に、あなたを利用しただけ」

 ーー嘘だよ。そんなの。

 ただ、檜を見ているとどうしようも無かった。

 あの頃の愛情がふつふつと湧いてきて、ただ純粋に抱かれたいって。そう思ったの。

 でも、既に婚約者がいるあたしは素直にそう伝える事が出来ない。

「利用、って言い方をしたら聞こえが悪いかもしれないけど。だからこそ、あたしはお金を払った。
 あなたにお金を要求された事で、あたしは救われたの。秋月くんに対して、これ以上罪悪感を抱く必要は無いって」

 何とか涙は溢さずに済んだ。

 あたしは顔を上げ、運転席へ目を向けた。
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