ボーダーライン。Neo【中】
あたしは彼を見つめ、えくぼを浮かべた。

「慎ちゃん、明けましておめでとう」

 慎ちゃんはゆるゆると顔を綻ばせ、おめでとう、と言った。

「サチ、いつ起きたの? 朝ごはん凄いなぁ〜」

「お正月だからね。お雑煮の味付けはうちの家のものだけど。慎ちゃんもお澄まし、だよね?」

「ああ、うん。ってか、すげーうまそう。サチみたいな料理上手な子と結婚出来るなんて、俺って幸せ者だな〜」

「食べる前から何言ってるの。早く顔洗ってきてね?」

「はーい」

 浮き足立つ彼の背を見つめ、あたしは小さなため息を床に落とした。

 正月の朝には似付かわしくないと知りつつも、暗い表情(かお)を作ってしまう。

 落ち込んでいた。

 何を、と自身に問いて、昨夜の事を思い出す。

 昨夜。ベッドの中で久しぶりに慎ちゃんと肌を合わせた。

 クリスマス以後、檜に付けられた跡が中々消えず、月の物を理由に断っていたのだが、漸く薄れたので彼と真面目に愛し合おうと思った。

 けれど、どうしてだろう。頭の中は至って冷静で、慎ちゃんとの情事にのめり込めない。

 彼から与えられる刺激に少しは反応するものの、あの夜のようには濡れない。乱れない。

 愛の言葉も熱っぽい口付けも単なる儀式のようで、冷徹なあたしをすり抜ける。あたしは人形と化していた。
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