ボーダーライン。Neo【中】
遠ざかる黒のセダン車を見つめ、これで良いんだと自分に言い聞かせた。

 そして、あなたは、と消え入るような声で呟く。

「あたしといると駄目になる」

 きっと、あなたの事で頭がいっぱいになったら、また自分本位に考えると思うから。

 あなたの足を引っ張って、芸能活動にすら支障をきたすだろうから。

「……だから」

 ーー早く嫌って下さい。

 そう念じて瞼を降ろした。

 ーーまた傷付けた。

「ごめんなさい……っ」

 両手で顔を覆い、その場にうずくまる。

 言葉のナイフで檜の心を傷付けたあたしは、一体何がしたかったのだろう。

 ただ、檜とは同じ視線で同じものを見て生きていく事は出来ない、と。そう伝えたかっただけなのに。

 頬を伝う涙が、雫となって、地面に吸い込まれる。

 気持ちが落ち着くまで、しばらくそこを動けずにいた。

 程なくして、洟をすすり、ハンカチで涙を拭く。

 腕時計の針に目を落とし、慌てて帰路を走った。

「慎ちゃん、ごめんねー。遅くなったー」

 予定より四十分遅れての帰宅となり、玄関を勢いよく開けた。

「あれ? 慎ちゃん、どこにいるの?」

 いつもリビングに座っているはずの姿が見えず、あたしは室内を探し回った。
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