ボーダーライン。Neo【中】
何も感じない人形の心で慎ちゃんと交わり、当然オーガズムにも達しない。

 彼の興奮を覚まさぬようにと、意識的に演技をし、そんな自分を憐れだと感じた。

 こんな事は初めてだった。

 確かに、いつも体を重ねる度にオーガズムを感じていたわけではないけれど、こんなに不感症な自分がいるとは夢にも思わなかった。

 今年、あと五ヶ月と数日で慎ちゃんと夫婦になる。

 そうなれば、男女の営みは彼としか許されない。この先の人生はまだまだ長いのに、あたしは昨夜みたいな、あんな惨めな気持ちを抱えて過ごさなければいけないのだろうか?

 それが情けなくて、哀しくて、自己憐憫の情まで湧いて、嫌気がさす。

 取り戻さなければいけないと思った。

 前みたいに、もっと慎ちゃんと愛し合って、そこそこ潤いに満ちた日常に戻らなければいつかは乾いてしまう。

 間違っても檜との過ちを思い出してはいけない。だから、今朝のメールも返せない。

「お待たせ。ついでに髭も剃ってきた」

「……ん。いい感じ」

 リビングに戻った彼と共に食卓を囲む。あたしは自然に見える笑みを作って、手を合わせた。


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