ボーダーライン。Neo【中】
「はい。だけど今日観た映画は、今度お世話になる監督さんの処女作だったので。ちゃんと観ておかなくちゃと思って」

「……へえ。やっぱり、プロの女優さんは言う事が違うな」

「いえ、そんなっ。恐縮です」

 本心だった。

 プライベートの時間であっても、彼女は常に仕事の事を考えている。

 彼女のプロ意識に対して、流石だなと尊敬の念すら湧いた。

「さっき。一瞬、勘違いかなぁと思いました」

「え…?」

 一瞬、何の事を言っているのか分からず、キョトンとした目で彼女を見ると、

「ほら、映画館でお会いした時」

と補足し、笹峰さんは僕を見て微笑んだ。

 ああ、映画館でばったり会った時の話をしているのか、と思い半時前の彼女を思い出す。

「それにしては、笹峰さん。ガン見してましたよね?」

 正直、泣いていたのを見られたんじゃないかと焦った僕をも思い出し、ハハっ、と笑い声を上げる。

「だって」

 彼女は突如、恥ずかしそうに俯いた。

「Hinokiさん、髪切ってるから」

「え? ああ…」

 今言われて気付いたかの様に、空いた方の手で襟足を撫でる。

「実は今日、なんですけど。変ですか?」

 チラリと横目を向けると笹峰さんは、いえ、と手を振り、顔を赤らめた。
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