ボーダーライン。Neo【中】
「凄く似合ってます…っ」
素敵です、と続けて言われ、少し反応に困ってしまう。
僕はありがとうございます、と素直に礼を述べた。
進行方向とは逆に流れて行く夜のネオン。
笹峰さんは窓の外を見やり、少しの間無言になった。
どうしたのかな、と不思議に思うものの、さして気には留めず、運転に集中する。
「……いつまでも連絡が貰えないので。早まった事をしたな、と。後悔してました」
「え?」
ーー今度は一体なんの……
話の意図が掴めず、助手席に横目を向けると、彼女は頬を染め、真剣な表情で鞄を握り締めていた。
ーーあ。
以前共演したCM撮影で、笹峰さんからアドレスを渡されていたのをこのタイミングで思い出す。
こっそり貰ったそれは、未だ財布に入れたままだ。
幸子に想いを残した状態で、別の女性に連絡する気にはなれなかった。
僕の自惚れかもしれないが、好意を寄せてくれる相手をいい加減に扱うのはあまりにも失礼だ。
過去、奈々にそうしたように。
去年、茜にそうしたように。本気の恋に発展出来ず、セフレで終わってしまう危険性も有る。
僕だって男だ。それなりの色仕掛けを受けたら、あっさり抱いてしまうだろう。
僕は僅かに眉を寄せ、透さんが言っていた嘘の言い訳をそのまま借りようと口にした。
「……あれは、その。無くしてしまって」
「え?」
張り詰めた表情から、笹峰さんは少し呆気に取られ、固まっている。
「恐らく自宅で、なんですけど。すみません。せっかく頂いたのに」
「え……、いえいえ。そうだったんですか…」