ボーダーライン。Neo【中】
彼女は幾らか俯き、良かったです、と眉を下げた。
「てっきり。拒絶されたものだと」
泣きそうなのを我慢して、無理に笑っている様な、そんな横顔だった。
夜道を照らすヘッドライトを、フッと静かに消した。
彼女の自宅付近まで道案内して貰い、人目につかない路傍で僕は車を停めた。
シートベルトを外し、ありがとうございます、と一礼する笹峰さんに、それじゃあまた、と社交辞令の返事をする。
ハンドルに腕を置いたまま、彼女の背を見送り、ふと助手席に目を留めた。
「あの……っ!」
僕は慌てて車から降り、笹峰さんを呼び止めた。
エントランスへ続く階段を途中まで登り、彼女は少し残念そうな顔で振り返る。
「……もう。バレちゃいましたか」
「え?」
彼女が忘れたハンカチを見つめ、故意に置いて行ったのかと瞬時に悟る。
「少しでも会う口実が。欲しかっただけなんです」
そう言って彼女は回れ右をし、一段ずつ階段を降りて来る。
ストレートに告白された訳では無いが、ニュアンスだけはしっかりと伝わってくる。
ーーここは。追い掛けるべきでは無かったな。
彼女にどんな言葉を掛けようか、頭の中を模索し、白い吐息を漏らした。