ボーダーライン。Neo【中】
「……きゃっ!?」
ーーえ、
僕は前方を見上げ、息を呑んだ。
階段で足を踏み外したせいか、不意に笹峰さんが体勢を崩し、前のめりに倒れ込んでくる。
僕は咄嗟に手を伸ばし、彼女を抱きとめた。
「……だ。大丈夫ですか?」
「はい」
フワッと舞い上がるオーデコロンの香りと女性特有の柔らかさに、一瞬、男の血が騒ぐのだが。
ふと夜のしじまに、クシャッと紙を丸める様な、あの小気味よい音が響いた気がして、すぐさま冷静になる。
彼女の肩に両手を置き、距離をとった。周りを注意深く観察する。
「どうかしましたか?」
首を傾げる笹峰さんに、いえ、と短く答える。
それらしい影はどこにも見当たらず、勘違いかと首を捻った。
「Hinokiさんは覚えていないかもしれないけれど。前にもこんな事が有ったんです」
「え?」
笹峰さんに忘れ物のハンカチを返すと、彼女は俯きがちに、真剣な口調になった。
「テレビ局内の階段で、転びそうになった私を。抱き留めてくれました」
いつの話か思い出せないが、彼女が嘘を吐く理由も無い。
笹峰さんは熱っぽく潤んだ瞳で、僕を見上げた。
「私は。彼女候補にはなれませんか?」
「……っ!」
直球過ぎる台詞に、ドキンと鼓動が打った。
普段仕事をしている時の表情とは明らかに違う。