ボーダーライン。Neo【中】

 しかしながら、僕は困った顔で視線を逸らし「すみません」と口にする。

「実は最近。失恋したばかりで、そう簡単に心変わりが出来ないんです」

 失恋、と彼女は呟き、目を丸くした。

「Hinokiさんでも、失恋なんてするんですか??」

 僕は眉を下げ、フッと小さく笑った。

「そりゃあしますよ」

「……そう、ですよね」

 手にした鞄をギュッと握り締め、笹峰さんは目を伏せた。

「諦めが悪くて、同じ相手からもう三回ぐらい、振られてます」

「え?」

「それぐらい。他の女性には目を向けれないんですよね」

 笹峰さんにとっては冷たいが、彼女との間に、きっぱり線引きするつもりでそう言った。

「一途なんですね」

 笹峰さんは弱々しい声で足元を見つめていた。

 彼女に背を向ける間際、僕は失礼を承知の上で、ひとこと言い残した。

「またこうして、帰りが深夜になりそうな時は。前もってマネージャーさんに言っておいた方が良いですよ? 迎えに来てって」

「……。え?」

「間違っても深夜のタクシーに家まで送って貰うなんて。止めた方がいい」
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