ボーダーライン。Neo【中】

「重要なのは、お前の(ここ)に巣くう事だ」

 そう言って自分の心臓を拳で叩く。

「と、言われても……」

 僕は狼狽し、目を泳がせた。

 高校生の頃からフッと幸子が棲み始めたみたいに、笹峰さんが僕の心の鍵を開ける。

 そう理解して、ため息をついた。

 勿論、いつまでも叶わぬ恋を追い掛けてばかりいないで、さっさと別の女性が棲み始めてくれるのなら、それに越した事はない。

 僕は昨夜の笹峰さんを思い出し、机上の週刊誌を見つめた。

 好きになれれば、という気持ちはあるけれど、それは僕自身が早く楽になりたいからだ。

 幸子の事を完全に忘れ去って、笹峰さんを愛せたら、あの痛みとやるせなさとは二度とおさらばだ。

 けれど、ズタズタに傷付いた心は時間と共に回復し、また性懲りも無く()()()追うのだろう。

 もはやストーカーに等しい。

「檜の想い人は。ニュースを知って、何を思っただろうな?」

 僕はビクッと肩を震わせた。

 透さんはいつの間にかまた煙草を咥えている。

「確か前に、失恋したって言ってたよな?」

 声の調子にはさっきまでの揶揄した雰囲気は無い。僕は無言で頷いた。
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