ボーダーライン。Neo【中】
透さんには幸子と会った日の事を、既に電話で話していた。
幸子から突き放され、諦めるしかないと決めた事もだ。
身を引くと決断する前まで、僕は何度も頭の中で考えた。
あの日彼女から言われた"忘れたい過去"という台詞が、一体何を指しているのか。
あれは少なからず、彼女がついた嘘だと考えた。
何故なら、本当にそう思っているのなら、五年ぶりに再会したあの夜、もう少し話していたいなどと、幸子が言えるはず無いからだ。
それならどうして幸子は、全てを否定する言い方をしたのか。
恐らくは僕の心を挫く為、幸子はいい加減諦めて欲しいのだろう。
彼女の中では、十ヶ月の交際期間など、最早過去であり、思い出となっている。
僕は週刊誌の表紙に書かれた“フリッパー”いう文字を見つめ、彼女は、と口を開いた。
「ニュースを見て、多分ホッとしてると思います」
「ホッとしてる?」
煙りを吐き出す透さんに、眉を下げたまま、やんわりと頷いた。
「記事の全部を、真に受けているかどうかは分かりませんが。
俺が他の女の子を見るようになった……そう思って、もう付きまとわれる事はない、と。安心してると思います」