ボーダーライン。Neo【中】
「あの頃から、俺は本気でこの世界を目指していたし。デビューも間近だった。
幸子は多分、その時から……こういう事にも不安があったんだ」
「スキャンダル、か?」
「はい。こんな週刊誌に有ること無いこと書かれて。それが幸せだなんて、思えるはずがない」
「……そうだな」
僕が業界で成功するかどうかは別として、幸子は世間の目に晒される、そのリスクから身を引いた。
「彼女は、今ある幸せを壊されたく無いんです。
俺が関与して、こんな与太話に巻き込まれるのは御免だ、って。きっとそう思ってる」
透さんは無言で首を捻った。
「だから俺は諦めるんです。幸子には幸せになって欲しい」
そう断言すると、心の扉を開けられる気がした。
もう出て行っていいんだ、と。いつまでも座り込むあの頃の幸子を、僕は見送らなければいけない。
灰皿に二本目を押し付け、透さんは、まぁな、と相槌を打った。
「相手の幸せを願うのも愛だ」
「ですよね」
僕は泣き笑いの様な笑みで、再び水を足しにソファーから立ち上がった。
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