ボーダーライン。Neo【中】

 ーーこの後、檜は抱き締めたのかな……。

 ぼんやりとそんな事を考え、あのCMを思い出した。

 令嬢にピンク色の口紅を引く、執事姿の彼を思い、心臓の奥がキュッと痛んだ。

 白黒写真の檜をそっと指先で撫でてみる。眼鏡を掛けたその横顔からは何も読み取れない。

 髪を短く切り、更には写真の効果で黒髪に見えるせいか、あたしは高三の秋、檜がたった一度だけ髪を黒く染めた事を思い出していた。

 檜はあたしの親へ挨拶に行くため、地毛である茶髪をわざわざ黒髪に染めていた。

 ーーあの頃。もっと頑張っていれば、違う未来も有ったのかな。

 精神的に弱過ぎるあたしのせいで、あたしは自分も含めて彼を傷付けた。

 過ぎた事を悔やんでも仕方ないと知りつつ、あの頃、もしも、と考えてしまう。

 あたしは自然と下唇を噛んでいた。

 複雑な思いが交錯する。

 檜と一緒になる未来は、自分から手放してしまったというのに、彼が他の誰かのモノになるのは嫌だ。

 全く自分勝手過ぎて、嫌気がさす。

 けれど、コレはきっとファンの心理だ。二次元の彼に女性の影など考えられない、そういう気持ちなんだ。

 あたしは無理やりそう結論付けた。

 それにもしこのスキャンダルが本当だとすれば、得手勝手な私情は抜きにして、きっと彼にとっては良い結果となっただろう。

 あたし以外に好きな人を見つけてその想いが実ったのだとすれば。
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