ボーダーライン。Neo【中】

「サチの結婚報告したら、嫌み言われたの」

 その時の事を思い出して、美波は仏頂面になった。

「嫌みって、なんて?」

「あたしに独身かどうか訊ねて“貴女も早く結婚しないと、嫁の貰い手無くなりますよ?”みたいな事をね」

 あちゃー、とわざとおどけて苦笑した。

「まだ二十三で若いし、今や売れっ子だから調子に乗ってんでしょっ」

 美波は毒づき、ストローで氷をカラカラ鳴らす。

 あたしは曖昧な笑みで、うーん、と首を傾げた。美波に檜の事を言うべきか、少し迷っていた。

 親友の彼女へは、かつて檜との交際内容について余程の事情が無い限り、何でも話していた訳だが。

 彼との背徳行為は、やはり軽々しく口には出来ない。

 慎ちゃんへの裏切り行為でもあるのだから、責められる事は容易に想像出来た。

 禁酒をし、避妊もせずに檜と抱き合っていた過去。彼と結婚するために、彼の子供が欲しいとあたしは躍起になっていた。

 その時、美波にこう言われたのだ。

 ーー「サチはさ。単に結婚っていう‘契約’であの子を縛りたいだけなんだよ。
 その為に妊娠したいだなんて。子供は結婚する為の道具じゃ無いんだよ?」

 勿論、美波が正しい。

 正しいが、あたしは邪な気持ちでその言葉を聞いていた。

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