ボーダーライン。Neo【中】
「やっぱ元カノには優しいんだね?」
美波が楽しそうに笑った。
特別扱いをされている気がして、やはり嬉しくなる。
「んー。そんなでもないよ? あたしだって最初は意地悪言われたし」
「……最初って。そんなに長く会ってたの?」
「え、」
瞬間、マズいと思った。
「う、ううん。三十分ぐらい、かな?」
言いながら視線を左右に泳がせた。
実際は五時間ほど共に過ごしたはずだが、長く逢っていたのがバレるのは良くない。
「ふぅん」
美波は変わらず、笑顔だった。それを見て、ひそかに胸を撫で下ろす。
手前の白い灰皿を、慣れた手つきで引き寄せ、美波が「あ」と呟いた。
「普通に喫煙席選んじゃったけど。サチ、おめでたとかじゃないよね?」
彼女の言葉に、ふっと笑みを漏らす。
「うん。慎ちゃんとはあんまりそういうのないから」
「……え。一緒に暮らしてるのに?」
「一緒に暮らしてるのに」
あたしはカップを持ち上げ、紅茶を飲んだ。
慎ちゃんへのその不満が元で、檜と危うい関係を結んでしまったんだよね。
本当に馬鹿な女だ、と自身を窘めた。
結婚を前にした大人の女性の取る行動とは、とても思えない。
ふと、じぃっと見つめる美波の視線が気になった。
「なに?」