ボーダーライン。Neo【中】
「ごめん、サチ! もう会社戻んなきゃっ」
通話を終えた美波は、すまなさそうに柏手を打った。
「ううん。会えて良かったよ」
あたしはえくぼを浮かべ、破顔した。
美波と会えたお陰で、今後ワイドショーを観ても憂鬱になる事は無い。
店先で彼女に手を振り、あたしはマンションに向かって歩き出す。
足取りは一層、軽く感じられた。
その日、慎ちゃんの帰宅時間はやや遅く、食卓を囲む頃には、十時を幾らか回っていた。
「……てかさ。笹峰優羽も災難だよなぁ。
あんなチャラチャラした奴に騙されて。イメージダウンもいいとこだよ」
鯖の味噌煮をほぐす箸を止め、あたしはテレビに目を向けた。
丁度、笹峰優羽さんが出ている家電製品のCMがやっていた。
「……慎ちゃんって。笹峰優羽ちゃん、好きなの?」
あたしはキョトンとした目で首を傾げた。
「え。ああ、うん。まぁ」
「ふぅん」
何というか、初耳だ。
「あ、ほら。笹峰優羽って可愛いし演技上手いし」
「うん。確かに。声も可愛らしいよね」
あたしも笹峰優羽さんは、どちらかと言えば好きだ。
実際、あたしの好きなドラマにもしょっちゅう出ているし、彼女が出ているドラマは面白いと話題に上がる。