イジメのカミサマ
暦はわざととぼけた様子で答え、志乃は目を見開いた。
「ウ、ウソつき……! さっき何もしないって約束したのに!」
「そんなこと一言も言ってないわよ? 『もし何かしたらこのナイフで私を刺して構わない』って言ったの」
彼女は楽しそうに笑って告げる。
「だからもしアンタがウソをつかれたと思うなら、そのナイフで私を刺せばいいのよ。簡単な話でしょ?」
「そ、そんなこと……本当にできるわけないよ……!」
「それはアンタが弱虫だからでしょ。私には関係ないわ」
暦はケラケラと感情を煽る様に哄笑する。
「さあどうすんの? 大切なママの形見じゃなかったの?」
「うう……どうしてこんな酷いこと……許せない……!」
志乃の持つナイフの手が、プルプルと震える。断言できるけど、優しい志乃に暦は刺せない。このままでは膠着状態になる。
私が声をかけようとした時――またしても校舎がユラユラと大きく揺れた。その拍子に志乃の小さい手からナイフがカラン、と音を立てて落ちる。
今度は狭い廊下にいたのもあって、私たちは咄嗟に窓枠に掴まる事が出来た。それにしても、こんなに地震が多いなんてやっぱりここは元の世界とは別の場所なのかな?
揺れが収まった後、暦は落ちた自分のナイフを拾い上げて大事そうに胸ポケットにしまった。
「ちょっと、気安く落とさないでくれる? アンタにとってのキーホルダー以上にこのナイフは私にとって大切なんだから」
ただの果物ナイフをそんなに大事に思っていたんだ……そう思った私は暦の手を見てふと気付いた。
「ねえ暦、志乃のキーホルダーはどうしたの?」
「ああ……そう言えば今の地震でまた窓から落としちゃった」
暦は悪びれた様子もなく答え、志乃は慌てて抗議する。
「そ、そんな! どうしてくれるんですか!」
「ごめんねマザコン女。でもさっきと同じでわざとじゃないし不可抗力よ。諦めることね」
「イヤだよ……! クマさんがいなかったら、シノは何も出来ない……!」
そんな志乃を無視して進もうとする彼女の手を私は掴んだ。
「待って」
「何よ。加奈も何か言いたいことがあるわけ?」
そう問いかける彼女の表情は、敵対的というよりはこちらを伺っている様に見えた。
私は、しゃがみ込んで動かなくなってしまった志乃を静かに指さす。
「あのままじゃ彼女はついてこないと思う」
「それで?」
平静を装いつつ、彼女は微かに動揺の色を浮かべている。自分でもやり過ぎたと思っているのかな。
「例え学校を出ても、三人で力を合わせないと危険だと思うの。だから志乃を置いていくわけにはいかない」
「……だからキーホルダーを探せって?」
「この下は中庭だから、手分けすればすぐ見つかると思う」
すると暦は何故か納得した様子で頷き、踵を返して志乃を引っ張り上げた。
「うわわわっ⁉ 何するの⁉」
「ギャーギャーうるさいわよ。アンタのダサいキーホルダーを探してあげるって言ってるの」
「ホントに⁉ ありがとう、この御恩は一生忘れませぬ!」
何故かキーホルダーを失くした張本人にお辞儀する志乃を見て、私は思わず笑った。
「ウ、ウソつき……! さっき何もしないって約束したのに!」
「そんなこと一言も言ってないわよ? 『もし何かしたらこのナイフで私を刺して構わない』って言ったの」
彼女は楽しそうに笑って告げる。
「だからもしアンタがウソをつかれたと思うなら、そのナイフで私を刺せばいいのよ。簡単な話でしょ?」
「そ、そんなこと……本当にできるわけないよ……!」
「それはアンタが弱虫だからでしょ。私には関係ないわ」
暦はケラケラと感情を煽る様に哄笑する。
「さあどうすんの? 大切なママの形見じゃなかったの?」
「うう……どうしてこんな酷いこと……許せない……!」
志乃の持つナイフの手が、プルプルと震える。断言できるけど、優しい志乃に暦は刺せない。このままでは膠着状態になる。
私が声をかけようとした時――またしても校舎がユラユラと大きく揺れた。その拍子に志乃の小さい手からナイフがカラン、と音を立てて落ちる。
今度は狭い廊下にいたのもあって、私たちは咄嗟に窓枠に掴まる事が出来た。それにしても、こんなに地震が多いなんてやっぱりここは元の世界とは別の場所なのかな?
揺れが収まった後、暦は落ちた自分のナイフを拾い上げて大事そうに胸ポケットにしまった。
「ちょっと、気安く落とさないでくれる? アンタにとってのキーホルダー以上にこのナイフは私にとって大切なんだから」
ただの果物ナイフをそんなに大事に思っていたんだ……そう思った私は暦の手を見てふと気付いた。
「ねえ暦、志乃のキーホルダーはどうしたの?」
「ああ……そう言えば今の地震でまた窓から落としちゃった」
暦は悪びれた様子もなく答え、志乃は慌てて抗議する。
「そ、そんな! どうしてくれるんですか!」
「ごめんねマザコン女。でもさっきと同じでわざとじゃないし不可抗力よ。諦めることね」
「イヤだよ……! クマさんがいなかったら、シノは何も出来ない……!」
そんな志乃を無視して進もうとする彼女の手を私は掴んだ。
「待って」
「何よ。加奈も何か言いたいことがあるわけ?」
そう問いかける彼女の表情は、敵対的というよりはこちらを伺っている様に見えた。
私は、しゃがみ込んで動かなくなってしまった志乃を静かに指さす。
「あのままじゃ彼女はついてこないと思う」
「それで?」
平静を装いつつ、彼女は微かに動揺の色を浮かべている。自分でもやり過ぎたと思っているのかな。
「例え学校を出ても、三人で力を合わせないと危険だと思うの。だから志乃を置いていくわけにはいかない」
「……だからキーホルダーを探せって?」
「この下は中庭だから、手分けすればすぐ見つかると思う」
すると暦は何故か納得した様子で頷き、踵を返して志乃を引っ張り上げた。
「うわわわっ⁉ 何するの⁉」
「ギャーギャーうるさいわよ。アンタのダサいキーホルダーを探してあげるって言ってるの」
「ホントに⁉ ありがとう、この御恩は一生忘れませぬ!」
何故かキーホルダーを失くした張本人にお辞儀する志乃を見て、私は思わず笑った。