イジメのカミサマ
東雲志乃は、学校の屋上で吹き付ける風に煽られながら立ち尽くしていた。

紫色の空を仰ぐ彼女の背中に、私は乱れた息を整えながら叫ぶ。

「志乃! 待って!」



彼女はゆっくり振り返り……汗に塗れた私を見て、静かに微笑んだ。

「待つって、何を待つの? もうそんな必要なんてないのに」

「そんなことない! 志乃がここで自殺したら何も分からないままなんだよ! それでもいいの?」

「ううん、違うよ。ここに来たのはあのクマさんから逃げる為。そして、加奈ちゃんに真実を伝える為」

「真実?」

「この世界のルールを破れば、シノは解放されるから。シノはね……もう疲れちゃったの」



彼女は弱々しく微笑む。

「解放と言っても行き着く先は地獄だけれど。それでも、これ以上この世界に束縛されるよりはずっとマシだから」

「何を言って……」

「よく聞いて。私の正体はこの世界で『役割』を命じられた悪魔。そして加奈ちゃんは——」



しかし、私は志乃の言葉を最後まで聞くことは出来なかった。

激しい振動音が彼女の言葉を遮り、屋上の床に亀裂が走ったからだ。

「そんなまさか……」



振動は更に大きくなっていき、亀裂は無数に広がって……噴火の様に吹き飛んだ床から、巨大クマが飛び出して派手に屋上へ着地する。

志乃と出会うまでは気配を感じなかったのに。きっと校舎に侵入した後、私たちに悟られないよう屋上の下まで這って移動して来たんだ。



「志乃! 逃げなきゃ!」
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