イジメのカミサマ
あまりに凄惨な東雲志乃の末路に、思わず私は目を覆う。

志乃は結局、私に何を伝えたかったのだろう? それに最後の言葉の意味は一体……?

考えることで現実逃避をしていた私は、志乃を食べ終えた巨大クマが標的を変えたことに直前まで気づかなかった。

「やめて、こっちに来ないでよ……!」



牙から血を滴らせ、眼前に迫る醜悪な怪物を前に私は後ずさる。

志乃はさっき、このクマは私のことは襲わないと言っていた。だからきっと大丈夫……!

「カナチャン……カナチャン……」



そんな私の思いは、意外な形で裏切られた。

突如言葉を発した怪物の声は、紛れもなく志乃のものだった。

「志乃……? もしかしてそこにいるの……?」



あり得ない。志乃は間違いなくこのバケモノに食われて死んでしまったはず。

だけど、ここは『どんなあり得ないことでもあり得る世界』だ。ならひょっとしたら――

「志乃、意識があるなら返事をして! もしかしたらまだ助かる方法があるかもしれない!」



私が必死に呼びかけると、巨大クマは感情のない瞳で私を一瞬見つめて――



「……タリナイ。オカワリ」



目に留まらぬ速さでクマが私を掴み、その巨大な口を開く。

志乃の血の匂いが混じった生臭い息を吹きつけられ、私は悲鳴を上げた。

「カナチャンオイシソウ……コレデクマサンモマンゾクダヨネ……ソレナラシノモマンゾク……」



もうダメだ。クマと一体化した今、志乃には理性が残っていない。自分の欲求とクマの欲求が混ざり合った結果、私を食べることしか頭にないんだ。

私は観念して目を閉じた。

人が目を閉じる大半は眠る時と死ぬ時だ。

なら、自ら目を閉じることは死を受け入れることと同じはず。みっともなく喚きながら死ぬくらいなら、せめて自分の意志を守って死にたい。

しかしまさに牙が私の命を貫こうとした瞬間、激しい衝撃と共に私はクマの手から投げ出された。

「イタイ……イタイヨォ……」



屋上の床で横倒しになり巨体をバタつかせるクマの上で――その白髪の少女は掌をかざして浮いていた。
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