イジメのカミサマ
「いたっ……⁉ 何するの?」

「ごめん。でもやっぱり我慢出来ない。アンタはさっき喰われかけた時、どうして目を瞑ったの?」



暦は本気で怒っているみたいだった。彼女は命の恩人だけど、やっぱり何を考えているのか分からなくて怖い。

「私に刺された時には、散々悪態を吐いていたくせに……記憶を失ったアンタは綺麗な死に方を選ぶってわけ? 虫が良すぎるにも程があるわよ!」

「私に刺された……? どういう意味なの⁉」

「その被害者面の口調をやめなさい! ここであの子みたいにアンタを捻り潰してもいいのよ⁉」



暦は憎しみに満ちた目で私を射抜いて……それから気持ちを落ち着ける様に大きく息を吸い込んだ。

「落ち着くのよ暦……ここで暴走したら、全てが台無しになる……」

「さっきから何を言っているの⁉ いい加減私のことを教えてよ!」



私は思わず暦の肩を掴んだけど、謎の力によって数メートルも弾き飛ばされてしまった。

地面に頭を打ち付け、私は痛みに呻き声を上げる。鈍痛が走る中、遠くから暦が無慈悲に告げる声がした。

「急ぎなさい加奈。あなたが記憶を取り戻せなければ、あなたも私も目的を達成出来ない。急いで……あの空の時計が、あなた自身を刻み終える前に」



そして再び、月詠暦は黒い穴へと消え失せた。
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