イジメのカミサマ
手紙を持つ私の手が震え、涙が落ちて文字を滲ませていく。

かつての私の目に、これ以上ないほどの憎しみが浮かぶ。怒りの権化と化した少女は、壺の破片を握りしめると目の前の物言わぬ体躯に思いきり突き立てて――

鮮血が飛び散ると同時に、黒く虚ろな穴が現れて二人を包み込んだ。穴に吸い込まれていく自分自身に、私は必死に手を伸ばして――

気づけば、また私は薄暗い昇降口で一人立ち尽くしていた。

私は暫く茫然とした後、昇降口を出てあてどもなく木々に覆われた中庭を歩く。

過去の私……中学時代の私は、かつて私をイジメていた相手に復讐を果たした。

でも、それ以降の記憶は依然として戻らない。さっき、あの巨大な穴に吸い込まれた先で二人に何があったの? そしてその後私はどのようにして生きてきたの?

ふと前を見ると、血の足跡がまたしても前へ続いていた。私は得体の知れない恐怖を振り払い、その足跡を追う。

足跡は中庭の外れにある体育館倉庫の前で途切れていた。私は扉の前で深呼吸すると、意を決して中に入る。

煤けた倉庫内に人気はなかった。薄暗く狭い室内を進んでいくと、私は床におびただしい血痕と果物ナイフが落ちているのを見つける。

「果物ナイフ……?」



これは確か、月詠暦が大切にしていたものだったはず。

私がそれを拾い上げようとした瞬間、雷鳴が轟き再び世界から色彩が消え失せる。



血痕があった場所には誰かがお腹を抑えてうずくまっていて――その目の前では、月詠暦が凄絶な表情を浮かべて立っていた。
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