イジメのカミサマ
「アンタが悪いのよ……！」



暦が震える声で告げ、血まみれの手で目の前の誰かを指さす。

「アンタがここまで私を追い詰めるから……私に殺意を抱かせたりなんかしたから……！」

「うるさいッ！」



その誰よりも聞き慣れた叫び声に、私は衝撃を受ける。

顔を上げた人物の瞳は、真っ黒の空洞が空いていたけれど……それは紛れもなく私自身の顔だったのだ。

「う、があああああっ！」



獣の様な咆哮を上げて、私は腹から何かを引き抜く。それは先程私が拾おうとしていた暦のナイフだった。

「こんなものをこの私に刺しやがって……カミサマであるこの私に逆らいやがって……殺してやる、殺してやる！」



私は醜く叫びながらナイフを振りかざすも、ナイフは私の手から弱弱しくすっぽ抜けて暦の足元に落ちた。

「もう無駄よ。アンタはここで惨たらしく一人で死ぬの。私はアンタにイジメられていた証拠を持ってるし、軽い罪で済まされて終わり。ねえねえ？ ネズミに喉を噛み切られて今どんな気持ちどんな気持ちぃ？」



ドクン、と現在の私の鼓動が激しく波打つのを感じた。

「カミサマだったらやり返してみなよ。今まで散々私を痛めつけてきたでしょう？ ホラホラ、私はここにいるわよ」



ドクン、と更に鼓動が高鳴り、全身が沸騰したかの様に熱い血が回り出す。

目の前で顔を歪めて哄笑する過去の暦を前に、憎しみの奔流が全シナプスを駆け巡って――



バシンッ！ と凄まじい衝撃と共に現在の私を白い光が包み込む。

そして再び目を覚ました私は――真っ白になった髪に、頭上には禍々しい真っ黒な輪を浮かべて。



「――随分と長いお昼寝だったわね」



そして色彩を取り戻した世界で私はゆっくりと振り返る。



倉庫の入口に立っている、この世で誰よりも憎いかつての『獲物』へ復讐する為に。
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