イジメのカミサマ
「これによると、世界には無数の並行世界が存在するらしいの。私たちが元いた『現実世界』はその一つ過ぎない。そしてこの世界は『継承世界』と呼ばれていて天国と地獄の境界に存在しており、様々な『カミサマ』を継承する為の儀式が行われている。今回の場合は『イジメのカミサマ』の儀式ね」

「……私たちはどうしてそんな場所に呼び出されたの?」

「二人が儀式を受ける為の条件を満たしたからよ。私はイジメのカミサマであるアンタを刺した。現時点でカミサマであるアンタはもうすぐ現実世界で死ぬ。だから継承の儀式が始まった」



もうすぐ自分は死ぬ……その事実をはっきり突き付けられ、私は思わず目を見開く。

「焦ってももう運命は変わらないんだから、最後まで話を聞きなさい」



暦が酷薄に告げると、赤い球体が寄り集まって今度は三つに分かれて浮かび上がる。

「最初私が持っていた手紙に書かれていたことはもちろんウソ。本当はこう書かれていたの。『汝が求める神の座を継ぎたくば、東雲志乃と四つの試練を用いて己の力量を示せ。試練は順に『トジコメノシレン』『カクサレノシレン』『ボウギャクノシレン』『カミゴロシノシレン』の四つである』ってね。私が求めた『神の座』はもちろん『イジメのカミサマ』。だから私は志乃を徹底的にいじめたの。試練の方もアンタが上手く動いてくれたおかげで順調にクリアできた」

「ってことは……あの三回の鐘の音は、試練をクリアした合図だったのね」

「呑み込みが早くて助かるわね」



彼女がバタンと本を閉じると同時に、三つの球体は血の入った水風船の様に弾け飛ぶ。

「なら四つ目の試練の内容と、この儀式の目的も加奈なら分かるわよね?」



私は一瞬頭を巡らせたけど、これまでの文脈から答えを導くのはそう難しくなかった。

「最後の試練は『カミゴロシノシレン』つまり『カミ』である私を殺すこと。そしてあなたの目的は私から『イジメのカミサマ』の座を継承すること」

「大正解―!」



暦ははしゃいだ子供の様に高らかに叫び――だけど、その声はすぐに凄まじい轟音にかき消された。

私が暦のナイフを拾い上げ、彼女の真横の壁に向かって投げつけたからだ。

対して力も入れていないのに、ナイフは光の矢となって壁を粉砕しその衝撃で暦は体育館倉庫から投げ出される。



立ち込める土煙の中から中庭に歩み出ると、暦は地面に手を突いてゲホゲホと咳き込んでいた。
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