イジメのカミサマ
轟音と共にあらゆる物体が浮き上がっていく中、暦はグラウンドに出来たクレーターの中で倒れていた。

まだ原型を留めているということは、彼女もかなり力を授かっているのは本当みたい。

だったらそれを上回る力で、グチャグチャになるまで壊してあげるだけ。

「こよみんの目的は達成させないよ」



私はグラウンドに降り立つと、彼女に歩み寄って告げた。

「むしろ、どのみち私は死ぬならこよみんも道連れにしてあげる。この世界で殺しても、現実のこよみんは死なないだろうけど……せめて楽しい思い出は残してあげられるもの」



暦は傷だらけの体で立ち上がり、私を睨みつける。最後まで諦めない不屈の姿は、まるで彼女が主人公であるかの様に錯覚させられる。

それが気に食わなくて、私は今度は自分から彼女に殴り掛かった。暦は辛うじて両手でバリアらしきものを張ったけど、防ぎきれず宙へ投げ出される。

私は彼女を追って空へ飛び立った。暦は体勢を立て直すと、そばに浮かんでいた校舎の一部に着地した。そのまま次々と校舎の欠片に飛び移り、距離を取る。

逃げ回っても私は倒せないのに、どういうつもりだろう? 私が後を追いながらそう思った瞬間、銀色に光る何かが無数に飛んできた。きっと暦があの果物ナイフを召喚して投げてきたのだ。

だけどそのスピードは私が投げた時よりもずっと遅い。私はシューティングゲームみたいに次々とそれを交わすと、高笑いを上げて高度を上げていく。

暦は逃げながら、今度は辺りの瓦礫を操って私に投げつけてきた。こんな石ころで私をどうにか出来ると思ったのかな。

だけど私が瓦礫を念動力で粉砕した瞬間、その破片の中から暦が突っ込んできて私を貫いた。

ブシュ、と血が噴き出して私の右手が千切れ飛ぶ。振り返ると、暦が顔に汗を浮かべながら不敵な笑みを浮かべていた。

「油断したわね。いつも慢心してるから私に刺されたりするのよ。狙いが逸れなければアンタの首を飛ばしていたわ」



そんな彼女の目の前で、私は千切れた腕を軽く振ると……ボコボコ、と泡のはぜる様な音を立てて右手が一瞬で再生した。

「そんな……そんなのズルイわよ……!」



一瞬にして絶望に変わる彼女の前に瞬間移動すると、その細い首を掴んで私は囁いた。

「ズルくなかったらイジメのカミサマなんて務まらないでしょ?」



ドンッ! と一瞬にして私はそのまま急降下し、数百メートル下のグラウンドに彼女を叩きつけて――



先ほどの数倍のクレーターが出来上がると共に、辺りは舞い上がった土煙で席巻された。
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