イジメのカミサマ
地面に半分埋まり、私に首を絞められた体勢で暦は私を見上げていた。

虚ろな目からは闘志は消え、もう彼女からはオーラも感じられない。このまま首を握り潰せば呆気なく死ぬだろう。

吹き荒れる風の中、二人の白髪の少女はしばらく見つめ合い……

「……私の負けよ」



暦が掠れた声で呟いた。

「私はアンタに一矢は報いたけど、結局現実世界でも継承世界でも勝つことは出来なかった」

「当たり前よ。不意打ちさえなければこよみんが私に勝る点なんてない」



私は憎悪と狂気の混じった眼で目の前の無力な少女に告げる。

「楽には死なせないわよ。残された後少しの時間でたっぷりいたぶってあげる。まずは手足をもいで動けなくして、それから――」

「そんなことはもうどうでもいいでしょ? さっさと殺して」



暦が私の手を握り、自らの喉を絞め付ける。

私はそこで初めて微かな疑念を抱いた。

「そんなに私にいたぶられるのが怖いの?」

「違う。だけどこの世界はもう限界よ。世界の崩壊は、同時にアンタの死を意味する。私を殺す前に、アンタが死んでしまったら意味がないでしょ?」



確かに辺りの物体ほとんど空へ吸い込まれてしまっていて、私たちがいるのは風の吹き荒れる荒涼とした大地だ。

空のどす黒い赤も更に濃度を増し、やがて真紅の雨が辺りに降り注ぎ始めた。きっと現実の私の状態とリンクしているのだろう。

だけど、私の疑念はどうしても晴れることはなかった。暦はどうしてこんなに焦っているの? まるで自ら死を望んでいるかのような……

私はハッとしてさっきの戦いを思い出す。暦は私の嗜虐心を煽る様にわざと逃げ回りながら戦っていた。あれが全て彼女の計算の内だとしたら……?



「……こよみん。私に何かウソをついてるでしょ?」
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