イジメのカミサマ
「ウソ? そんなものついてないわよ……!」



暦は即座に答えたが、私は彼女が瞼を震わせたのを見逃さなかった。いつも暦がウソをつく時の癖だ。

「な、何するの⁉ 返して!」

「真実を確かめるの」



私は無理やり暦の内ポケットから手紙を取り出すと、それを広げて中を見た。

内容は確かにさっき彼女が語ったものとほぼ一緒だったけど、手紙では更に試練の内容の詳細が記載されていた。

そして『カミゴロシノシレン』の達成条件は――

「『神を殺すこと』ではなく『神に殺されること』」



その一文を読み上げて、私は思わず手紙を握りつぶした。

そうか……そうだったんだ。

「こよみんの目的は、最初から私を倒すことじゃなくて私に殺されることだった。だから憎しみを煽る為に記憶を取り戻させ、私に殺されやすいように立ち回った。そうことだよね?」

「だったら何なのよ! アンタは私を殺してやりたいくらい憎んでいるんでしょ⁉ なら一思いにやればいいじゃない!」



彼女が開き直って訴えれば訴える程、私の心は冷静さを取り戻していく。

今までの私は、過去の虐げられる自分を何度も見せられたせいで憎しみに支配されていた。

でもそれが全て暦の策略と分かった今、寧ろ私は彼女を可哀そうに思うようになってしまった。

目の前で倒れている少女は――鏡に映った自分だと気づいたのだから。

「どうしてそこまでして『イジメのカミサマ』になりたいの? そんなことをしなくても、私が死んだ後現実世界で憎しみを誰かにぶつければいいじゃない」

「それは……!」

「本当は気づいているんでしょ? 暦は私に憎しみを植え付けられたけど、本当は誰かを傷つけたりなんかしたくない。その葛藤がこの世界を生み出して、そしてあなたに試練を与えた」



そう――かつての私が、あの黒い穴の中で体験した様に。

「試練をクリアして『カミサマ』というお済付きをもらえば、あなたは迷うことなく誰かをいじめられる。私の意思を継承した者として、自分の行為を正当化できる」

「だったら……だとしたら何なのよ……!」

「私は暦を殺さない」



私は彼女の細い首から手を放した。それと同時に私の真っ白だった髪が元の黒に戻り始める。



「これ以上イジメは伝染させるわけにはいかない。あなたのおかげで、ようやく気付くことが出来たの」
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