イジメのカミサマ
暦が首を捻ると、志乃が掌にクマのキーホルダーをポンと当てて叫ぶ。

「分かった! きっとカエルさんがあのドアの鍵の場所を知ってるんだよ!」

「はあ? そんな都合の良い話があるわけないでしょ?」



呆れる暦を尻目に、志乃は空いた方の手でカエルを抱き抱えて教室を回り始めた。

「お願いカエルさん、鍵はどこにあるのか教えて下さい。カエルさんは親切だからきっと教えてくれるよね?」



カエルに話しかけながら、教室のロッカーや掃除道具入れ、窓際や教壇などを順に回っていく。だけど、カエルは鳴くどころかピクリとも反応しない。

「おかしいなぁ……もしかして本当にただのカエルさんだったのかな? それとも長い間閉じ込められて疲れちゃったのかな?」



志乃はションボリした様子でカエルを見つめる。その様子があんまり気の毒だったので慰めようとしたけど、それを制する様に暦が言い放つ。

「いい加減にしなさいよアンタ! そんなのただのカエルに決まってるでしょ! 第一、教室のどこかに鍵なんてあるわけないのに――」



すると突然、カエルは暦を前にしてジタバタと暴れ始めた。

「ちょっと、急にどうしたのカエルさん⁉」



志乃がなだめようとするも、カエルは必死に手から逃れようと手足をバタつかせる。

「何なのよもう! そんな気持ち悪い生き物、窓から捨てちゃいなさいよ!」



暦が叫ぶと同時に、私はあることに気付いて口を開いた。

「ダメだよ暦、そんなことをしたら。だってそのカエルはとても親切なんだから」

「は?」



視線を向ける暦に、私ははっきりと告げる。

「暦、胸ポケット以外のポケットも見せて」

「……どうしてそんな必要があるの?」

「カエルは親切だから、不親切な人を嫌う。もし暦がドアの鍵を隠し持っていたなら、カエルはそれに反応して嫌がると思うの」

「はあ? 私はそんなことしてないし、そんなオカルトめいた話があるわけないでしょ」

「ならどうしてさっきこう言ったの?『教室のどこかに鍵なんてあるわけない』って」



一瞬の沈黙の後、暦が告げた。

「普通ならそう考えると思っただけ。でもそこまで疑うなら分かったわよ、確認してみる」



彼女はブレザーの外ポケット、内ポケットと順番に確認し、スカートのポケットに手を入れて動きを止めた。



再び現れた彼女の手には、鈍い光沢を放つ鍵が握られていた。
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