イジメのカミサマ
「カエルを振り払った時、鍵が窓から飛んで行ってしまったの」

「じゃあ、もうここに鍵はないの……?」

「そうね、ごめんなさい。もし信じられないなら身体検査してくれてもいいけど」



だが彼女の表情を見る限り、今度ばかりは真実だろう。私は力なくその場で崩れ落ちる。

どうしてこんなに悪いことばかり重なるのだろう。まるで世界が結託して私たちをイジメているかのように……イジメているかのように……

ザザッ、と白いノイズがフラッシュバックして。

私の脳裏に朧げな光景が浮かぶ。

そうだ――以前の私も確か、何かにイジメられていた。

それに対して私は何をした? ただ黙って泣いていただけ?



チガウ。チガウチガウチガウチガウチガウチガウチガウチガウチガウ――



全身を電流が血液の様に駆け巡り、私は淀んだ青い瞳を開く。

淀んだ瞳に移る世界は――何故かとても鮮明ではっきりと輪郭を持っている。

「それにしてもこのクソガエル……やってくれたわね」



後ろでは暦が立ち上がり、志乃とカエルを睥睨していた。

「そいつが飛びついてこなければ鍵を失わずに済んだのに! どうしてくれんのよ!」

「ちょっと、それはあんまりだよ! 親切なカエルさんがいなかったらそもそも鍵は見つからなかったのに!」

「うるさい! 大体アンタだってちゃんとそいつを抱えていればこんなことになってないのよ! 自分にも責任があるって思わないわけ? 挙句の果てに死にかけのカエルを介抱するなんて頭沸いてんじゃないの?」

「死にかけなんかじゃない! カエルさんはちゃんと元気になるもん!」

「黙れ!」



暦は志乃の背中を思いきり蹴飛ばした。志乃は呻き声を上げてカエルを庇う様にうずくまる。

「もう用済みなんだからそんなカエルさっさと死ねばいいのよ! どうせ私たちもここで死ぬんだから!」

「やめて……お願い……やめて……!」



響き渡る打撲音と、鳴りやまない怒号。

私はそれを無視して立ち上がると、転がっていた段ボールの箱まで歩いて底の裏を確認する。

「……やめなよ、暦」

「何よ加奈! あなたまで志乃を庇うつもり?」



声を荒げる彼女に、私は淡々と告げる。



「違う。それ以上続けても意味がないから」
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