ビッチは夜を蹴り飛ばす。
ご覧の通りあの日あの瞬間から言わずもがなあたしの世界は180℃変わったわけで、学校をひとたび歩けば好奇の目に晒されるのはもう安定と化していた。
ちょっとそれっぽい下ネタとか好きだったからさ、結構。だってそこそこウケんだもん。女子高生ならではの年相応の言える程度の冗談と若干の脚色を織り交ぜて。
変な話だよ、だってほんのつい数日前まで一緒に笑ってたってのに。
「写真ヤバいよね、鳴」
「ね、よっぽど溜まってたんじゃん。てかうちらと話してた時も結構エグいこと言ってこなかった?」
「言ってたー。あれ冗談でもキツいよね」
「実体験だったんじゃん」
「マジ引くんだけど」
「ほんとやめてほしい」
「あたしらも同類とか思われんじゃん、クソビッチ」
いつもつるんでた友だち二人と視線がかち合って、でも引き気味にさっ、と逸らされる。
あー、なんだよ、もう、こんなん、学業になんか到底専念できやしない。した試しもないしする気もないけどね。
授業中ノートを枕にぐるぐるぐる、ってシャーペンで落書きしてたらとんとん、と肩を叩かれて振り向いたら小学生が書いたみたいな股を開いた女の裸体と「Fuck you」って書かれたメモが回ってきた。矢印でご丁寧に「轟木 鳴」って書かれててさ。はあ、うんこですかお前ら。
(はやく夜の2時に帰りたい)
窓から差し込む太陽が鬱陶しい。学生の本分は勉強って言うけどさ。そこになんの価値も意味も見出せないのだよ。誰でも何がなんでも真昼間に世界があるわけじゃない。
あたしは夜に主導権を握っている。
「轟木 鳴」
でもそんなふうに場面転換して深夜2時に繋がらないのが映画やドラマと違うとこだ。
やっと終わりのショートを終えて掃除サボってかーえろ、って足早に下駄箱に差し掛かった時だった。無視をして、轟木 鳴、ってもっかい呼ばれて振り返る。
「すんなよ無視」
「…………誰だっけ」
「え、ひどい。お前今日イケメンだったそうじゃん」
え、なにが。全く持って繋がらないシナプスに、スクバをリュック背負いした茶髪のパーマ男がふわふわと破顔する。ね、て下駄箱に背中を預けて《栃野》と書かれた靴箱を男が指の節でノックしてから合点した。
彼氏だ、『鳴かわいーね』のスイちゃんの。