ビッチは夜を蹴り飛ばす。
Day.3
あんなに凶悪な殺人事件なんかをニュースで聞く割に日本って実は世界でも安全な国ランキング10位以内には入ってて比較的治安の良い国なんだって。確かに夜道を歩いててもよっぽど変な場所じゃなければ海外みたいに無条件で襲われたりとかは少ないけど、あたしたちってその線を今となっては越えてしまった。
ハワイの治安がどれくらいかまだよくわかってないけれど硯くんは夜中に一人で出歩くなって絶対言う。けど実はあたしはその意味が正直そこまでわかってない。
「いきたい」
「むり」
「い、き、た、いー!」
「無理なもんは無理」
ココナッツジュースなくなっちゃったの、と既に飲み干した2リットルのパックをキャップと持って逆さまにして見せつけるのに硯くんには腕で煙たげに避けられた。
さっきからずっとこんな押し問答をしている。時計の針が12から4に変わってるから20分だ。裸足でたんたんと地団駄を踏んだら響くからやめろと冷静に叱られた。
「たかだかジュースだろ水でも飲んで我慢しろ」
「この前マーケット行った時硯くんが冷蔵庫にまだあるっていってたからそれ信じて買わなくて今夜飲む分がないんじゃん!」
「鳴の飲むペースが尋常じゃないだけだって」
「あたしはいつも朝と夜に飲むって決めてるの!」
ココナッツジュース is マイライフ なうだと言うのにこの男ったらわかってない。ハワイに来てからほんとにほんとにこれが人生ってくらいリスペクトダダハマりだってのにあたしの死活問題を付き纏いながら怒ったら硯くんにははいはいって軽くあしらわれた。
「だから明日昼間買い物連れてくっつってんじゃん」
「明日の昼間だったら今晩と明日の朝飲む分がないじゃん!!」
「うるせえ抱くぞ」
「どうぞ!?!」
「どうぞじゃねーよ」
こいよと喧嘩するみたいに手で煽ったらべいっと顔面に手のひらを置かれてぐいーって遠くにやられた。うお、とバランスを崩して目をぱちぱちしたら既に玄関先に向かった硯くんを追っかける。