ビッチは夜を蹴り飛ばす。
Day.4 前夜
この数ヶ月で自分がいかに無力で弱くて誰かの助けがあって成り立ってるってことを改めて思い知ったけど、でもその分気付けることもあった。助けられてる分自分も助けられるってこと。目の当たりにしたものには手を差し伸べてあげたいし、これはあたしのエゴかもしれなくても、でもその分視野が広がったって評価されると思ってたら速やかに罵倒された。
「お前は馬鹿か? 学習能力ないんか」
腕組みした硯くんが玄関に立って中に入れてくれない。原因はあたしが今担いでるこの人だ。
人間を拾った。
「メイ、カワイイネ! オマケアゲル!」
「おー! さんきゅ! あいらびゅー!」
いつも贔屓にしてくれる市場の小太りのおじさんは自分が行くより女のあたしが行ったほうがおまけつけてくれるし甘いから、そんな理由でいつしか硯くんは夕方の魚屋に限ってはあたしに行ってこいを促すようになっていた。
指ハートしてウインクしたら胸を撃たれたみたいなリアクションしてくれる太っちょのおじさんは可愛くて、海外の人ってこう言う面でオーバーリアクションだからめちゃ可愛い。
「およ」
そんでスキップしながら魚の入った袋を振り回してるんるんしてた帰り道、路地の裏手を歩いてる人を見つけたんだ。暗がりでよくわかんなかったから影が動くのに目を凝らすと全身よく焼けた大柄のスキンヘッドの黒人が肩を押さえながら壁伝いにゆっくり歩いてきて、
「Help…」
あたしの前で倒れてしまったのだ。
で、どうしたらいいかわかんないしキョロキョロあたり見回してもみんな知らんふりだしよく見たら怪我してるしどうしようどうしようからの
冒頭。
扉にもたれて話を聞いていた硯くんがはー、と深いため息をつく。
「ついこないだあったこと忘れたの、そんなに襲われたいんなら一人で夜中うろついて来いよ」
「落ちてたから拾った!」
「もとあった場所に返してこい」
「そんな犬猫みたいに!」
「てかお前ボーガンで撃たれたおれは放置で外人は運んでくんのな」
「怪我の度合いが違うじゃん」
「まあそうだ」